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日記メイン。雑感や管理人tokiwailm(常盤いるむ)の落書きや【ぴく悪】など。サイコ○トラー某は関係ありません。


by tokiwailm

「歯車」の感想

・芥川龍之介 著、「歯車」、1927年。

文芸ジャンキーパラダイス」の管理人カジポン様一押しの一つ、
とのことなのでインターネット図書館の物を一読しました。
短編だからと言ってさらっと流すつもり、と少々侮っていたのですが、
これは凄い、というか経験のないタイプの作品でした。

形式としては主人公(芥川龍之介本人と思われます)が見たもの、
感じた事をただ書き綴った物。
当然そこに現れる事象もありふれたものでしかありません。
登場人物がよってたかって主人公をいじめるのでも、
凶器を持った化け物が追跡してくるわけでもありません。
そもそも、性質上ストーリーなどありません。
盛り上がりも落ちもない、ただの日常が続きます。

しかし主人公はそうは感じていません。
最初は割と普通なのですが、「レインコートの男」をはじまりに、
次第に見るもの、経験した事全てに不安、不吉さを感じていきます。
主人公が「前からよく見ている」歯車の幻覚も何度か登場します。
現象自体はいずれも同じなのですが、主人公の心情の変化により、
その重みは増していく…。

描写、言葉は過激でなく、むしろ静かなくらいですが、
それがかえって心情を際立てていくと言うもの。
何気ない日常が、次第に主人公を追い込んでいく様子が
ひしひしと伝わってきます。

こうして主人公の心情を書き綴った後、最後の一文が
「誰か僕の眠つてゐるうちにそつと絞め殺してくれるものはないか?」
です。反則ですよこれは。だって疑問符ですよ。
それまでに「憂鬱だ」とはいっても「死にたい」等とは言っていない主人公。
ただ日常を暮らしているのみで読者無視に話を進めていく主人公。
ここでいきなり振り返って詰め寄って来る訳です。
「笑ウせぇるすまん」の「ドーン!」とでも言うべきか。

何が一番怖いかというと、主人公、つまり芥川龍之介はこの作品を書いた時期
実際に神経を患っており、その後服毒自殺した事。
これは紛れもなく、死ぬ前の人間の、実際の記録というわけです。
この作品を読むと知らず知らずのうちその心に触れてしまう…。
ホラーでもないのに何か背筋に寒い物が残る作品でした。

落書きです。ちなみに上の作品との共通点は歯車が出ていることだけです。
「歯車」の感想_c0021043_20295597.jpg

by tokiwailm | 2005-10-22 20:31 | 読書録